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平成15年6月度・月報

8.ベースボール・フィールド


目     次
<阪神タイガース快進撃> <滑り込みセーフの空間> <野球と日本人>

<阪神タイガース快進撃>


 プロ野球団中日ドラゴンズの監督であった星野仙一氏が、2002年度のペナントリーグより、
引き抜かれて阪神タイガースの監督に就任しました。就任初年度はまずまずの成績であったものの、
第二年度の今年・2003年・平成15年度の前半の成績は、これまでにない勢いで阪神タイガース
ファン(虎吉=虎きちがい)を喜ばせています。

 平成15年6月中旬の段階でのセントラルリーグの成績表を掲げておきます。
 楽しみは、この表を4ヶ月後に埋めることです。予測できれば面白いところですが、筆者の
 予想としては、「はんしん?はんぎ?」で、「このままではないか?」としておきます。
セントラルリーグ勝敗表(第12節終了時点・6月15日現在)
順位球団名試合数勝ち数負け数引き分け勝ち率勝ち差
阪神634220。677
巨人623229。5259.5
中日633330。524
ヤクルト613130。5081.0
広島552629。4732.0
横浜601743。28311.5

セントラルリーグ勝敗表(架空)(第30節終了時点・10月15日現在)
球団名試合数勝ち数負け数引き分け勝ち率勝ち差
UT14086520.623
TS14074620.54411.0
ED14069660。51115.5
HG14066700.48519.0
DC14064720。47121.0
CB14049860.36335.5
セントラルリーグ勝敗表(実績)(全日程終了時点・10月16日集計)
球団名試合数勝ち数負け数引き分け勝ち率勝ち差
阪神14087510.630
中日14073660.52514.5
巨人14071660。5181.0
ヤクルト14071660.5180.0
広島14067710。4864.5
横浜14045940.32422.5
 ファンにとっては、吉田義雄監督の下で、昭和60年・1985年セリーグおよび日本シリーズを
征して優勝の感激を味わって以来約18年。その間毎年毎年、ひょっとしてと、密かにセントラル
リーグ優勝を、あわよくばチャンピオンフラッグを手にしたいものとの期待に反して、どうも不芳の
成績続きであっただけに、今年の活躍には、優勝への期待がだんだん大きくなってきています。
 (註)阪神タイガースの優勝年度(詳細は、引用ホームページ参照)
    1947(昭和22年)1964(昭和39年)1985(昭和60ねん)
    17年から21年の間を置いています。今年は、18年目ですから、そろそろとファンは
    推定したくなるわけです。

 阪神タイガースは、在阪球団の中でも大変人気の高いチームですから、その活躍は、社会的な
経済活動の活性化にもつながると推定されているのです。であれば、現在目下大不況、失業率や
倒産会社が増える一方の冴えない社会風潮ですから、なんとか「阪神タイガース」の活躍を誘い水に
して、元気を出したいところです。

 それはそうと、当該ホームページの本来の着眼点は、野球本来の構成とその面白さ、さらには
その野球をこよなく愛している日本人の多さに改めて再認識している点にあるのです。


<滑り込みセーフの空間>

 テレビで放映されるプロ野球の中継を見ていますと、投手が白球を投げ、それを打者が撃つ、
打たれた球を守備の野手が取って打者をアウトにする。この単純な動作の中に何とも言えない球と
人間の動作の競演が見られます。

 *球を打った打者が一塁にかけ込むタイミングと内野手から送られてきた球を受け取る一塁手の
  捕取がほとんど同時であることがわかります。
 *一塁走者が二塁へ盗塁するのと、捕手が二塁手に送球するタイミングがほとんど同時である
  ことが分かります。
 *外野手が取った飛球を見て、三塁から走者が本塁へ駆け込むタイミングと外野手からの返球を
  受け取る捕手のタッチがほとんど同時であることが分かります。

 ほとんど同時であるこれらの動作がなかったら、野球というのは、誠に詰まらないスポーツになる
でしょう。「アウト」かな、「セーフ」かなと思わせるところと、それを判定する審判の動きも
このスポーツならではの面白さを増している点ではないでしょうか。
 えてして、試合の勝ち負けに必死になって審判の判定に不服をぶちまけ、挙げ句の果てには
グラウンドで乱闘騒ぎまでしてしまう例もありますが、それもこのスポーツの「エキサイティング」な
ところに起因しているのでしょう。

 野球の特徴を6種類の長さで表現してみます。

  面白さ・その1 「0.07m(2.9インチ)の飛行物体」
     これは野球のボール、すなわち「白球」の大きさです。流体力学の原理に基づき、
     物体(空気)の中を飛行する回転円形物体は、真っ直ぐには動きません。流体の抵抗を
     受けて湾曲するのです。この原理を利用したのが、投手の藝の見せ所です。
     「カーブ」「スライダー」「シンカー」「フォーム」「ナックル」「パーム」「シュート」
     これらが、「オーバースロー」「サイドスロー」「アンダースロー」の投球フォームと
     共に野球の醍醐味を構成しているのです。
     この「白球」の寸法(野球規則では、直径ではなく、周長22.9〜23.5cm・
     9〜9.25インチとなっている)は、どうして決められたのでしょうか。
     人間の平均的な手の寸法を考慮して、円形物体を掴んだとき、又それを全力投球するとき
     いろいろな回転力を与えやすい寸法なのでしょう。「白球」がゴルフボールでは、小さ
     すぎますし、かといって「サッカーボール」では、大きすぎます。
     野球の妙味の第一要素です。

 面白さ・その2 「0.43m(17インチ)の狭き門」
     この0.43mは、何の長さでしょうか。正解は、ホームペースの広さです。
     0。43mの中を通る球か、外れる球かによって「ストライク」「ボール」の判定が
     下され、野球の基本の基本になるのです。投手の投げる球の判定がベースボールの
     最初の最初です。この判定動作がなければ、野球は始まりません。
     野球のボールの直径は、7cm(2.9インチ)ですから、ホームペースは、球の直径の
     約6倍です。投手は、この「狭き門」に白球を如何に放り込むかで、野球を面白くして
     います。

 面白さ・その3 「1.067m(42インチ)のスポーツ空間製造道具」
     これは、言わずと知れた野球特有の「バット」の長さです。このバットから繰り出された
     白球の飛ぶ空間が野球世界を大きくかつ面白くしています。一度に何万人もの観衆が同時に
     只一個の白球を追って楽しめるのも、この「バット」のお陰です。曲げられて投げられて
     くる飛球物体を細い棒(ほぼ球の直径と同じ7cmの太さ)で打つという見ていても
     面白い動作を構成しているのです。

 面白さ・その4 「18.44m(60フィート6インチ)の工夫の空間」
     投手からホームペースまでの距離です。つまり、投手の投げる白球の飛距離です。
     長いようで短い距離です。 
     この空間の中で投手の魔術が工夫されるのです。投げられた白球は、上下に曲がったり、
     左右に振られて打者を惑わすのです。投手の投げた球が直球だけであったら
     野球は本当に詰まらないものであったでしょう。幸いにして飛球物体の流体力学的
     物理法則にしたがって空気という流体の中で白球という物体がいろいろにその飛行程を
     変化させるのです。これがまたたまらない野球の面白さです。

 面白さ・その5 「27.43m(90フィート)の盗みと疾走」
     守備側の球の受け取りが早いか、走者の走りが早いか。まさに球と足の競争です。
     この「90フィート=30ヤード」と何時誰が決めたのでしょうか。
     野球の誕生までには、いろいろの試行錯誤があったはずです。
     色々やった上で、一番面白い微妙な距離として選定されたように思います。    
     この塁間距離がもっと短かったり、もっと長かったら、打者は打てば、間違いなく
     「塁にでられる」か、あるいは反対に打てど打てど「塁にでられない」という、見ていても
     面白くない「野球」スポーツになっていたことでしょう。幸いにして、誠に微妙な
     タイミングで、「セーフ」になったり、「アウト」になったりするのです。
     よく考えられた走者のための塁間距離と言えましょう。時間に換算しますと、走者の
     疾走速度を100m走・12秒として27.43mを駆けるには、3.3秒です。
     この瞬間の長さというのは、聴衆は「息を凝らして手に汗を握って見つめられる
     時間的長さ」であるのです。
     

 面白さ・その6 「122m(400フィート)の逆転世界」
     打者の席から外野フェンスまでの距離の一例です。スタジアムによっては、フェンスまでの
     長さに長短があります。日本のプロ野球用野球場の広さは野外と
     室内(ドーム)で異なってきます。
     「バット」という野球空間製造道具によって拡げられた野球世界を、一段と面白くするのは
     フェンス越えの「ホームラン」という発想転換です。逆転の世界が生まれる工夫です。
     たった一本の打撃が1点から最大4点までを稼げる可能性を与えていることに野球の
     面白さは数倍に膨らんでいます。観衆に期待させるものは、打者の「ホームラン」である
     のです。

 野球というスポーツは、上記以外にいろいろ規定された条件の下で行う競技ですが、見れば見るほど
誠によくできた、また人を惹きつけるいろいろな面白さを構成しているものである事が分かります。
 何度やっても、何度見てもその面白さが忘れられない不思議なスポーツも、確かにその面白さの
要素が考えられたものであることがわかります。改めてかくも日本人の多くが熱中するスポーツである
ことを再認識したところです。
 


<野球と日本人>

 明治時代の初期に日本に持ち来たらされた「野球」は、それから早150年ほど経ち、現在では、
一般庶民最大の娯楽スポーツとなっています。
 (註)野球の知識、ルール、歴史などAll about Baseballのインターネット
    ホームページ参照方。
 
  (生い立ちと発展)(参考資料:「イラストによる最新スポーツルール’92」大修館書店)

 野球の起源としては、イギリスで行われていた「クリケット」「ラウンダー」であるという説が
有力です。それがやがてアメリカに伝えられ、いろいろの改良が加えられつつ、今日の米国式ベース
ボールに発展したということでしょう。
 現在では、アメリカが本拠地で、世界で一番盛んな国です。それだけにベースボール世界も巨大な
社会を形成しているのです。

 日本に於いては、
  1873(明治6年)神田一ツ橋の開成学校のアメリカ人教師ウイルソンが学生に教えたのが
            始まりとされています。
  1876(明治9年)新橋鉄道局の平岡煕(ひろし)が本場アメリカの野球を研究して持ち帰った。
            大學から中学へと広まっていった。
  1915(大正4年)全国中等学校野球大会始まる。(戦後の高等学校野球大会に引き継がれる)
  1924(大正13年)選抜中等学校野球大会始まる。(上に同じ)
            軟式野球も考案される。さらに野球人口は増加していった。
  1935(昭和10年)職業野球団体として、阪神や巨人軍が結成される。
  
 日本人がアメリカ生まれのスポーツである野球を知って130年。いまだに日本国民の中で一番人気の
高いまた観客数の多いスポーツであり続けています。今や未就学少年層から、実年層の草野球まで、
さらには、女性による野球団も結成されるようになり、ソフトボール共々、あらゆる年齢層に渡って、
また観客では、男性も女性も多くのファンを惹きつけています。
 現在公式の野球関係の団体としては、次のような各種の機構、連盟、協会などがあり、如何に
関係している集団が多いかということが分かります。

  日本野球連盟(JABA)社会人や少年野球の組織
  日本野球機構 プロ野球、オールスターゲーム、ペナントレース主宰団体。
  日本高等学校野球連盟(高野連)高等学校野球の組織
  日本学生野球協会 大學、高等学校野球を統括。   

 さて、このように「ベースボール界」は、日本人の社会では、その世相を変えるまでの影響を持つ
スポーツになっています。どうして、日本人は、野球が好きなのか。「民族性と野球の関係」を研究
している人文学者がいるはずです。単行本も何種類か出版されているようです。
  (一例:有山輝雄「甲子園野球と日本人」大修館書店(平成2年9月)

 野球のスポーツとしての面白さは、「スピード」「パワー」「個人技」「チームプレイ」という
キャッチフレーズで紹介されることが多いようです。
 編集子の独断と偏見による「日本人と野球」の関係は、次のような事項と見ています。

 その1 集団のスポーツ
     野球は、9人が一チームを編成して、他の9名から成るチームと対戦する集団の
     スポーツです。日本人は、一人で行うスポーツより、集団のスポーツをより好む
     のでは、と考えます。これは、野球に限らず、走ることでも、「リレー」が好きであり、
     「駅伝」なるマラソンの変形は、日本人の最も好むところです。
     「One for all」「All for one」などと云われて、チームの
     一致団結しての行動を強く、且つ美しいものと見るのが日本人のスポーツ感では
     ないでしょうか。

 その2 いろいろな道具でいろいろな動作を組み合わせる
     野球の基本動作は、「なげる」「うつ」「はしる」です。これらを白球、バット、グラブ
     などを使って見るものを楽しませます。しかもいろいろなルールが各動作毎にあって
     動作がそのルールの中で如何に見せるように行うかが見物の一つになっているのです。
     試合の記録がいろいろな数字での成績として残されていくのも野球の特徴です。
     集団の記録、選手各個人の成績など何かと多彩な事項が残されて行きます。
     
 その3 興行的要素
     一度に何万人もの観衆を集め、お祭り的な企画として行われる野球の試合には、一度に
     大きな金銭的な動きがあり、ひいては、野球選手の職業としての興行的要素も大きくなり
     その収入は、憧れの的となるのです。
     デーゲームよりナイトゲーム(ナイター)ショウビジネスとしては、大変魅力的なもので
     昔の河原での花火大会以上に人々を興奮させる効果を持っています。

 その4 観客もプレヤー(試合の予想)
     野球には、動と静の瞬間の繰り返しで、球の動きと共に、いろいろ動作を考えながら
     試合を楽しめます。「タイム」と「プレイ」がはっきりと審判によって切り替えられます。
     グラウンドで試合をしている選手同士以上に観客も選手と一緒になって
     試合の進行を予測(願いを持ちながら)し、参加している気持ちなります。
     試合に熱中してきますと、監督になった気分で、あれこれと声援を出したくなるのです。
     (ボクシングでは、3分間ですが、野球では、2時間から3時間声を出し続けることに
      なります。)
     観衆はテレビやラジオの前で「茶の間の監督」となり、「総野球評論家」ともなるのです。
     昭和の初めにラジオ中継放送が始まり、戦後テレビ中継放映が可能になり、野球を観戦する
     観衆の人口は、一挙に万人単位から何百万人、何千万人に膨れ上がりました。
     お金を余りかけずに評論でき、参加した気分になれ、楽しめるスポーツは、野球ならでは
     でしょう。「行うスポーツ」が「詠むスポーツ」(新聞や読み物での野球情報)になり、
     「聴くスポーツ」(ラジオ放送)になり、さらに「見るスポーツ」(テレビ放映)へと
     大衆の要望に応えていったのです。

 その5 学校や地域などの対抗するスポーツ
     江戸時代の幕藩体制そのままに「おらが地区」を代表する選手団を結成でき、かつ応援
     できるスポーツであること。「同じ地域」「同じ学校」「同じ地方」の集団に応援する
     ことになります。この風潮は、明治初期まず、野球をものにした「第一高等学校」が
     築いた「一高生の武士的エリート意識に基づいた野球」の伝統が日本野球の姿勢を
     武士道的野球としての技術と精神を追求するという形に決めてしまいました。
      (武士道的野球:勝利至上主義、精神鍛錬主義、集団帰属主義など)
     この「一高野球」を大衆化するのに、新聞社(朝日、毎日)の企画が拍車をかけました。
     大正末から昭和初めに「スポーツ大衆化ブーム」に乗っかった全国的野球対抗競技への
     構築は、日本人の野球を決定的な姿に固定してしまいました。
     もはや「個人が楽しむスポーツ」でなくなっているのです。プロ野球のファン行動に
     至っては、もはや「生死を賭けた出来事」になりつつあります。
      (註)戦前に一時、野球の害毒論争が展開し、国家的なある制限(野球統制令)が、
         発せられたほどです。 

 野球が米国で誕生して、160年、日本に導入されて130年、益々、盛んになる野球ではある
ものの、既に日本人の中には、これまで130年の歴史を経て、築かれた世界が存在します。
 これからの21世紀には、その「野球世界」はどのような展開を見せるのでしょうか。
 戦後の野球界に目覚めてきた「楽しむ野球」の要素がさらに花開いていくのか、これまでの
「日本野球」の「精神」をさらに濃厚に純化させていくのか、やや方向の見通しが不透明な感じが
します。
 
 本来スポーツとは、より多くの人がより楽しい人生の一時を分かち合えるように、創出していく
のが本当の「スポーツ」の姿であると考え直さねばならないと思うところです。


*** 平成15年10月17日追記 ***産業部技術顧問・中西久幸


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