
人類が手にした乗り物は、「乳母車」のような簡単な手押し車に始まり、近年の例で言いますと 「大八車」などの4輪車の人力を原動機とする乗り物から、牛車となり馬車となり、産業革命で蒸気を 活用することを思いつき、「蒸気機関車」に発展し、電気の発明による「電車」が出来て、石油を 使った「自動車」「飛行機」「ジェット機」「ロケット」と「より早く」「より大量に」「より安全に」 乗れる「文明の利器」を見出してきました。 この人類の乗り物の世界の歴史の中にあって注目されるものは、「人力」による「自転車」です。 自転車の原型に当たる「二輪人力車」が世の中に出たのは、1810年代とされ、現在の自転車の 原型は19世紀の後半と見られていますから、自転車の歴史はまだ百年ちょっとということになります。 (詳細は後述の<自転車ミニ事典>参照方) これまでペダル式の後輪駆動自転車が過去百年間の一般大衆化された自転車の典型でしたが、百年経った 20世紀の後半より自転車もいろいろ技術面で新しい進展がありました。 平成15年新春特集記事(読売新聞H。15.1.5付け)より興味ある「自転車のハイテク化加速」 内容を選りだしてみます。
| 開発分野 | 開発技術 | 技術概要 |
|---|---|---|
| 動力系統 | 電動アシスト車 | 数年前から市販(10万円前後)されだした電動補助車で、 充電した電池からの電動力で坂道低速走行を補助するもの。 ただし、時速25km以上で動力が停止する。 |
| 自動変速システム | センサーで速度を測り、コンピュータが最適ギアを判断して、 小型モーターで変速するもの。 | |
| 二輪駆動方式 | 不整地の安定走行、段差の乗り越え、走行安定性が得られるのが 前後輪駆動で、後輪の回転を前輪に伝達するもの(例・東京理科大学の開発車) | |
| 長楕円軌道二輪 ペダル方式 | ペダルギヤが上下2輪で、長楕円軌道にペダルをこぐ。 従来型より1.8倍の力が出る。ベンチャー企業オーテック社開発の「SDV」(添付写真参照) | |
| リカンベント方式 | 背もたれの姿勢からの反動を利用するもの。走行時の空気抵抗が小さく、 消費エネルギーが通常車の半分で、腰の負担は1/10とわずか、高速走行可能。 | |
| 前輪駆動モーター方式 | 前輪に補助モーターをつけたもの。「バイク・ラボ社」販売品。 | |
| 電気系統 | コンピュータ ディスプレイ | 車速、最適ギア、サスペンション硬さなどの制御コンピュータ・ディスプレイ |
| ハブダイナモ | 前輪車軸中に発電器を組み込んだもの。 | |
| LEDライト | 白色LEDで、消費電力を抑え、輝きは増したライト | |
| 自動充電電池車 | 補助動力供給電池への充電で、下り坂でのエネルギーで発電・充電する。ニッケル水素電池より リチウムイオン電池を使用。 | |
| 消費カロリー 表示機能 | メーターで自転車運転中の消費カロリーを表示するもの。 | |
| 構造形式 | 折り畳み車 | 持ち運びが容易なようにコンパクトに折り畳めるもの。(添付写真参照) |
| 前後輪サスペンション | 低速時はふらつかないよう硬めに、高速時は柔らかく、サスペンションを乗り心地よく調整する。 | |
| ローラーブレーキ | 晴天・雨天を問わず、安定して作動するブレーキで、キーキー音無し。 | |
| 新素材軽量車 | 炭素繊維、チタン、マグネシウム合金、希少金属スカンジウム・アルミニウム特殊合金で、軽量・高強度材の使用。 | |
| 改良チャイルドシート | 両肩と腰を固定する四点式シートベルト |


********* 最新自転車情報(追記)***********
上表の駆動形式の改良と折り畳み式構造の新型自転車情報をとして、去る
10月23日、丸石自転車より、ドライブシャフト駆動式折り畳み自転車の
新製品が発表されました。その製品紹介は、同社のホームページにあります。
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(その1)自転車レーン
自転車を学校への通学に利用することは、何処でも見馴れたことですが、最近の珍しい傾向として
東京都心のような大都会の真ん中で、かえって自転車の利用価値が認められ出したことです。
都心の交通渋滞を解決する一つの方法であることは確かです。東京都では、都心部の自転車道整備
計画を進めていて、平成21年(2009)までに延長34kmの自転車用レーンを設ける予定です。
ロンドン市内の救急隊に「救急自転車リーム」が2002年7月から組織され、大活躍だそうです。
自転車には救急薬品他の緊急対応手段を積み込んでおり、日に10件以上の出動があるようで、
面白いことに救急車と比べて8割方現場に前に着けるとのこと。
(その2)公共レンタサイクル
自転車をレンタルする目的は、通勤通学の往復における自宅から最寄りの駅まで、最寄りの駅から
目的地まで自動車やバスに代わって活用するものです。移動の何れの地域でもで自転車レンタル
システムが整備されていないと利用価値が無くなります。
郊外の駅周辺に於ける自転車の不法駐輪は、日本の各地の何れでも問題になっている一種の公害
です。この問題を解決するには、駅そのものに相当な駐輪設備を完備しない限り、如何なる駐輪
システムを考えても無駄なように思います。
海外の例では、オランダで「デポ公共交通システム」というのが推進されつつあるとのこと。
これは、都心各地の「デポ」という複数の駐輪場に白い自転車を配置し、ICカードで借りたり、
返却したり、利用料金は、自動的に銀行の口座から差し引かれると言うものです。
観光地では、最寄りの駅で借りた自転車で観光地点を巡回して帰りがけに返却するシステムが
すこしづつ普及してきました。これが観光目的だけでなく、日常生活に於いても活かされるように
なればさらに自転車の利用度は高まるでしょう。
(その3)自転車大旅行
自転車では思ったところへ乗り込んでいける便利さを活用して、自転車での大旅行を企てて実行
している人々が出てきました。自転車旅行そのものが、その人の人生になっているのです。
インターネットに上梓している「自転車旅行記」を何件か探すことが出来ます。
(一例)http://travel.tipst.com/top.htm
http://www.geocities.co.jp/outdoors-mountain/5528/
自転車による国内一周などは今に始まったことでなく、既にアメリカ人トーマス・スチーブンスは、
「オーディナリー・自転車」での世界一周を思い立ち、1884年(明治17年)サンフランシスコを
出発、アメリカ大陸を横断し、大西洋を横断してイギリス、フランス、ドイツ、ロシア、中国を
経由して、1886年(明治19年)11月長崎に到着、陸路横浜までサイクリング、「自転車
世界一周」を著しているのです。彼の著書にある日本での人力車とのスケッチも残しています。


米人スチーブンスの来朝から16年後の1902年(明治35年)、日本人も世界旅行に挑戦し ました。中村春吉は同年2月25日横浜港を出発、一年三ヶ月かかって世界無銭自転車旅行を成し遂げ ました。その旅行記は明治37年雑誌「中学世界」に押川春浪により「無銭冒険自転車世界一周」と 題して、掲載されました。
自転車の原型はフランス・イギリスに於ける18世紀終わりから19世紀にかけて、車にまたがって 足で地面を蹴って走行する方式のものが考案され、19世紀後半になって初めて現在の自転車の原機構 に近づくものへ、つぎつぎと改良されてきました。 二輪の原型に自転車の原理が確立するのに、約100年を要したことになります。 シブラック伯爵の二輪車より丁度100年、1890年代には、「フリー・ホイール」「チェンジ・ ギア」「各種パーツ」の改良が進み、現在の「ダイヤモンド・フレーム」「チェーン・ドライブ」の 基本構造が確立しました。
| 年度 | 発明者 | 国名 | 自転車の概要 |
|---|---|---|---|
| 1790 | シブラック伯爵 | フランス | 木製二輪車・セレリフェール |
| 1816 | J。N。ニエプス | フランス | 木製二輪車・セレリペード(操舵不能) |
| 1818 | K。ドライス | ドイツ | ドライジーネ |
| 1839 | K。マックミラン | イギリス | ロッドとクランクの後輪駆動 |
| 1861 | ピエール父子 | フランス | 回転クランクとペダル式自転車 |
| 1861 | ミショー親子 | フランス | 前輪回転式ベロシペード |
| 1869 | A。ギルメとメイエ | フランス | 後輪チェーン駆動式 |
| 1873 | H。J。ローソン | イギリス | セーフティ・バイシクル(チェーンドライブ、X型フレーム、低いサドル) |
| 1885 | J.K.スターレイ | イギリス | ローバー・セイフティ・バイシクル(フレーム構造改良) |
| 1889 | J.B.ダンロップ | イギリス | 空気入りタイヤの実用化 | /tr>



自転車が日本へ輸入され始めたのは、明治3年(1870)ごろで、それから20年後の明治23年 (1890)には、宮田製銃所で国産第1号が製造されています。 第一次大戦でイギリスからの輸入が途絶え、国産化が急速に進むと共に、一般に安価に供給され始め、 実用車として使われ始めました。 第二次大戦後、自転車は昭和30年代からの自動車の時代が車での国民の足となり、庶民生活の いろいろな場で自転車が重宝されました。加えて自転車の基礎研究も進み、外国技術の導入も 相俟って、昭和40年頃からサイクリングが一層普及しました。 大阪府堺市内には、「自転車博物館サイクルセンター」があり、以上の自転車の歴史が実物で見る ことができます。 (注)ホームページURL http://museum-dir.jst.go.jp/27-406/27-406.htm

本文に使用した写真類は、全て下記の参考資料より抜粋しました。
(出典:(財)日本自転車普及協会「自転車文化センター収蔵資料写真集」(平成5年6月))
*** 平成15年3月5日(10月24日追記)***産業部技術顧問・中西久幸
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