敷島工藝社産業部

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平成14年9月度・月報
(平成15年2月追加情報)

4.人間の英知の限界(原子炉の亀裂)


<検査結果と事実隠蔽>

 さる8月30日の全国紙は、一斉に東京電力の原子力発電所に於ける原子炉核心部分での構成部材の
「き裂」を報じています。報道一例を朝日新聞に見てみましょう。

(引用資料:朝日新聞8月30日付け記事)
 その後の今日に至るまでの関連記事は、新聞記事(関連ホームページ参照)の通りです。
     (関連ホームページURL HTTP://WWW.ASAHI.COM/NATIONAL/TEPCO/INDEX.HTML)
  本件に関する原子力安全保安院の公告は、次の通りです。(発行日時に注目)
  (「沸騰水型原子炉炉心シュラウドの応力腐食割れに関する対応について」
                          原子力安全保安院(平成13年9月6日))

 要点は、原子力発電炉の核心にあるシュラウドという原子炉遮蔽壁の溶接部周辺に「き裂」が
発見されたというものです。

原子炉のシュラウドとき裂の発生個所の説明図(出典:上記経済産業省の公告)
 
 これに対する東京電力側は、「当社原子力発電所の点検・補修作業に係わるGE社指摘事項に関する
調査報告書」を出しています。
(関連ホームページURL HTTP://WWW.TEPCO.CO.JP/CORP-COM/PRESS/REPORT/INDEX-J.HTML)

 同種の原子炉に対する対応状況は、平成14年4月15日あるいは7月8日付の原子力安全保安院
公告「沸騰水型原子炉炉心シュラウドの応力腐食割れに関する原子炉設置者による自主点検結果に
ついて」(平成13年度第4四半期実施分)或いは(平成14年度第1四半期実施分)」に報告されて
います。事実を全て公表した報告かどうかは、別にして、ともかく関係官庁(監督官庁ではない)に
提出されたものです。
 それによりますと、関係電力会社は、東京電力、東北電力、北陸電力、中国電力、日本原子力発電の
各社の原子炉炉心シュラウドが、問題の検査対象になっています。

 案の定、東北電力、中部電力における定期検査に置いて、同種の「き裂」が検出されたと新聞報道
されました。(関連ホームページURL HTTP://WWW.TOHOKU-EPCO.CO.JP/WHATS/NEWS/2002/20923.HTM)

東北電力と中部電力の検査結果報道
 現在の日本に於ける発電システムは、その半分近くを原子力発電に頼っている関係上、原子力発電所の
トラブルから来る発電停止の問題は、即庶民の電力不足に繋がりかねない重要な社会問題になります。
 かといって直ちに代替発電施設が充実しているわけではありません。かっての石炭燃焼ボイラ
システムでは、大気汚染の公害問題があり、石油に頼ると海外資源に依存してしまうことになり、
これ又社会不安の材料になります。

 日本も大変なエネルギー消費国になってしまいました。今更、戦後の時期に於けるような貧しい
電力事情に甘んじることはできませんし、そんなに一挙に社会の進展レベルと速度を変更することは、
不可能です。そこで、「両刃の剣」である原子力発電に頼らざるを得ないのです。
 本当に選択の余地のない状態に、日本国は追いつめられています。最近は、常に危ない綱渡りを
やっているようなものです。

<人工物の安全性・信頼性>

 人類は、その5000年以上にわたる歴史の中において、色々な「モノ」を自らの利用に供する
為に造り続けてきました。手元の小さい文明器物である「紙」と「鉛筆」に始まって、大は、
馬車、汽車、電車、自動車、船舶、飛行機などの多くの乗り物、個人住宅から何百メートルの高さの
巨大な公共建造物まで、「原子力発電所」も、平和利用の一つの代表例です。
 発電所の場合は、人間同士戦い殺し合う戦争の諸兵器と違って、現代社会にはなくてはならない
ものです。 

 さて、これらの諸機器、器物類の「安全性」、「信頼性」が、最近とみに重要視されてきました。
 「製造物責任」という関連法規類が整備され始めたのもここ十数年のことです。
 これまで人工物は造って世の中に出せばそれで終り、トラブルや不具合があっても、それは使用者
側の問題とされてきたきらいがあります。

 「安全性工学」「信頼性工学」なる用語も頻繁に目に付くようになりました。
 元々人間は、自らの利便を考えてこれらの人工物を造りだしてきたのです。戦争用の兵器は
別にして。ですから、それらの人工物にはその使用目的に叶った「安全性」「信頼性」が含まれて
いて当然だったのですが、認識されなかっただけなのです。
 色々なトラブルや不具合事項が頻発するようになって初めて、それらの人工物の製造や使用に関して
問題視し始めたのです。

 絶対に転覆や衝突しない電車、人を轢いたり人を死亡させることの絶対にない自動車、絶対に沈没
しない船、絶対に墜落しない飛行機は、存在しうるのでしょうか。
 先ず、現状では、これらの人間が造った人工物に「絶対」はないように思います。
 それは何故でしょうか。

 全ての人工物用材料は、この地球上で調達できる物ばかりです。人間の利用できる地上の素材には、
必ずと言っていいほど、特性や性質が不変な物はないのです。使用すればするほどその素材は、元の
形や性質を変えて行くのです。

 現在最も頻繁に使用されている汎用工業材料は、いずれも機械的な「疲労」の問題、化学的な
「腐食」の問題、などを避けて通れません。それが、材料かも知れません。
 この問題は、静的な建造物以上に動く物では、顕著な問題です。高層建造物の寿命は、50年、
100年単位ですが、動く自動車などの寿命では、5年、10年が問題です。
 
 現に創造の神が作った「人間」という動物も、使用すればするほど、変形し、変質して行きます。
 ましていわんや、人間の作ったものには、全て寿命があると考えた方がいいようです。
 
 このように全ての人工物の素材は、変質して劣化損傷して行くからこそ、それぞれの人工物に対して
ある一定の使用後には、点検検査をして、その「変質劣化損傷」の過程を確認しながら使用している
わけです。

 原子力発電所もその例外では、ありません。人工物の代表的な物であり、しかもその機器の不具合
事態の時は周辺への影響が大きいだけに関係者がより慎重に、より頻度高く、検査をしていくべき
です。むしろ、何時も不具合事態が潜在的に進行していると見るべきです。
 裏を返せば、不具合事態が出てきて当然の成り行きとも言えます。
 よくぞ検出できたと考えるべきです。

 不具合事態を、より早く、より適切に処理していくことがこれら重要機器の使用要諦と考えるべきです。
 突然に巨大な亀裂やトラブルが出てくるのは処理に困りますから、なるべく未然に「変質劣化損傷」
の実態状況を認識すべきです。

*** 再度「人間の作ったものには、完全不変物はありえない」という観点に立って。 ***
*** 完全不変で不滅の「神」が作った「人間」でさえ、変質劣化していくのです。  ***
***  その「人間」に「完全不変物」は作れないという謙虚な再認識に立って。   ***

  平成14年の夏に東京電力の原子炉亀裂の問題が提起されてから、丁度半年経った平成15年2月
新聞は、次の現状報告を記事にしています。(読売新聞H。14.2.13日付け)

       「東電 原発再開メド立たず」ートラブル隠しー全機停止の恐れー
                       (地元に根強い不信感)
 原子炉の点検や再検査で東京電力の原子力発電所17基の内13基が停止してしまっていると
いうのです。17基の現状は次のようになっています。
発電所名号機出力(万kw)状     態
福島第一46.0定期検査中
78.43月31日より定期検査
78.4定期検査中
78.4定期検査中
78.4定期検査中
110.0自主点検中
福島第二110.0定期検査中
110.0トラブル
110.0定期検査中
110.0定期検査中
柏崎刈羽110.0定期検査中
110.03月10日より定期検査予定
110.0定期検査中
110.0定期検査中
110.03月1日より定期検査の予定
135.6定期検査中
135.63月29日より自主点検の予定
  残る4基も4月15日までに点検や検査に入るため、後2ヶ月の間に再開できる原子力発電所が
ないと、東京電力管内では、完全に原子力発電所からの電力はストップしてしまうわけです。
 それによる首都圏内の電力不足は、現実のものとなってきました。

 東京電力では、早期運転再開を目指している一方で、地元住民等の電力に対する不信感は、拭い去られて
居らず、運転再開の見通しは完全に立っていないのが現状だとのこと。 

 躍起になって次のような考え得る諸対応策を検討中だそうです。
1.火力発電所を再開する。(炭酸ガス問題)
2.他電力からの購入(枠は、100万キロワットだけだそうです。)
3.各種発電手段の導入(今更間に合わない)
 しかしながら、どうも「焼け石に水」の諸策のようです。今更に如何に東京電力にとって原子力が
重要か(40%)ということを再認識する結果になったわけです。

*** 平成14年9月27日 ***
(追記 平成15年2月13日)産業部技術顧問・中西久幸


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