いまから67年前、日常生活での衣食住という「もの」はすべて不足し、現代で言うところの 「消費者世界」は想像すらできなかった時期であった。 一方現代では、「消費者天国」とは言わないまでも、現代人は「もの」を四六時中、「消費」 しまくっている。それこそ原子力発電による電気から、地球環境を破壊してまで作り出す生活 必需品の数々の消費物まで、消費者の消費対象物はあたりに溢れかえっているといえる。 その利便さを享受する面だけが意識されるため、消費物に対する消費者の義務や権利は、 誠に曖昧模糊となっているといわざるをえない。 消費者世界にあって消費物に対する消費者のあり方は、どうあるべきなのか、自省の上に 立って心構えと提言を試みた。
「消費者」および「消費世界」の概念を、関連資料や諸情報源より拾い上げてみると、次の様になる。
1.「消費者」とは、財やサービスを消費する主体で、具体的には、代価を払って最終的に商品を
使用する、またサービスを受ける者を意味する。
*日本の「消費者契約法」では、事業者以外の個人を一括して「消費者」と定義し、「事業者」
との契約に係る利益の擁護を図ることを目指している。
*いわゆる「産業革命」以降の社会にあっては、広義に考えると国民全体が「消費者」であると
いえる。すなわち近代社会以前は、国民全体が「生産者であり、同時に消費者」である社会
構造になっていた。したがって消費者の問題は、自身の生産者としての問題として処理できた。
*ところが、近代以降の消費者世界では、国民は最大の集団であるにかかわらず、「消費者集団」は
組織化されていないため、「事業者」や「生産者」の商品や製品に欠陥があって被害を受けたり、
損害を与えられても、それに対して発言できず、消費者の権利は主張できず、弱者の立場にあった。
2.消費者のマイナス特性とは、
(1)供給者との格差:経済力や商品についての知識の格差。
(2)消費者の弱さ:生命や精神の傷つきやすさ、経済的弱さ。
(3)負担転嫁能力の欠如:消費損失を添加できる先がない。
3.消費者の四つの権利とは、
消費者運動の初期(受動的) 消費者運動盛んな頃 現在のスローガン(能動的)
(1)安全を求める権利・・・・・・・安全である権利・・・・・・・・・安全である権利
(2)選ぶ権利・・・・・・・・・・・選択する権利・・・・・・・・・・選ぶ権利
(3)知らされる権利・・・・・・・・知らされる権利・・・・・・・・・知る権利
(4)意見を聞いてもらう権利・・・・意見を聞き入れてもらう権利・・・要求する権利
3.消費者社会の歴史
*イギリス:18世紀末に産業革命が起こり、19世紀中頃には消費者問題が起こっている。
*アメリカ:1936年情報誌「コンシューマー・レポート」発刊され、1960年代頃から
企業告発による
コンシューマリズム運動が勃興している。
*日 本:戦後すぐに主婦の「おしゃもじ消費者運動」が起き、1960年代高度経済成長期に
各種消費者問題がでてき始めた。
1968年5月「消費者保護基本法」が制定され、産業優先から消費者優先の動きへ
移行するに伴い、全国の地方自治体に「消費者センター」が設置され、1969年には
日本消費者連盟が設立されてきた。
(高度経済成長を通商産業省が先導してきたが、1970年代から環境庁が発足した
ことに対応している。)
4.日本における消費者問題の時系列的対象
*1970年: 食品の安全性
*1972ー1973年:第一次石油危機での石油製品の値上げ協定訴え
*1975ー1995年:訪問販売トラブルと訪問販売法制定
*1985年ー:食品関係問題に加えて、住居品、教養娯楽品、保健衛生品分野の問題も起こってくる。
*1994年:製造物責任法制定
*2002年:自己破産申し立て、20万件突破。電子商取引トラブル発生。
*2009年:消費者庁設立。
5.消費者関係法規
*民法
*消費者基本法
*消費者契約法
*特定商取引関係法
*割賦販売法
*製造物責任法
*住宅品質確保促進等関係法
*電子契約法
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1.消費者世界
(1)財の消費:日常の生活環境からみると、「食」ー「衣」ー「住」の順番に消費者の所有する
四つの権利を行使すべく、消費物に対してしっかりした消費者の目を持たねばならない。
日本における消費者問題の歴史的経緯を辿っても、この順番に問題の重要性が順序
付けられる。
(2)サービスを受けるという消費:
*政治面では、統治される立場で行政と施策の結果を享受しているにすぎない。
最近では、国家の財政不安より消費税問題から年金問題まで、関わる課題は
誠に大きく、一市民で対処できる問題ではない。
*経済面は、政治面以上に一庶民の毎日の生活に直結した課題が多い。
近年特に消費者を無視した経済活動がのさばっていて、多事多難である。
*公共の治安、情報の共有、生活環境の整備など、サービスの対象は測りしれない。
(3)消費者行動の単位と動態:
*消費者問題は、いずれも政治的な大所高所で、対応するものでなく、むしろ
統治者から最も遠い地にいる一庶民、一個人としての受動的対応に基づく活動の
仕掛け人の積極的な活動でなければ本当の「消費者問題」が浮き上がってこない。
特に、食・衣・住に関しては、一般家庭の主婦の立場が重要である。
2.地域に根ざした消費者問題活動
(1)日本の消費者運動は大阪から起こった。1945年大阪の主婦らの粗悪品追放をスローガンにした
「おしゃもじ運動」とされる。お上(行政の中心)に遠い大阪の地で、消費者運動の歴史を引き続き
消費者の権利を十二分に活かした社会を掘り起し、全国への情報源となるべきであろう。
(2)日常生活に関わる身近なものや生活環境のすべての事態について、常に「消費者四権利」を
意識して対処する必要あり。生活のための消費物品は言うに及ばず、耐久消費物品こそ消費者側の
権利が無視されがち。それは消費物の使用による不具合や損傷の事態が見えにくいことによる。
消費者問題への意識を高める観点から地域単位で「消費者運動の日」を設けてはどうか。
(3)より多くの末端消費者が、持てる四権利を意識して、被っている事態に認識を深めることができる
ように運動を展開し、支援し、「目覚めた消費者層」を増やすことに務める。
絶えず地域の消費者世界状況を広報する必要あり。定期的に「コンシューマー・リポート」を
発行し続けるために、マスコミの情報手段を有効に活用すべきである。
(4)消費者社会の動きは一般市民の生活環境のペースにあっていない。情報の氾濫と多様化、高速化、
専門化の傾向にあり、一般人は置いてきぼりにされないよう、消費物に関する「最先端情報と
技術を持った消費者層」を構成していく必要あり。消費者情報の発信元と受信層を定期的な
連絡網で連携動作させるべきであろう。
(5)過去の消費者問題は、マスコミ情報によって知らされることが多かった。消費者の積極的な活動が
普段から見えていない。したがって、絶えず起こった事態に消費者は後手に対応せざるを得ない。
積極的な対応の具体的な一例としては、自治体の広報などを活用して、定期的に消費者運動の
活動状況とその結果を消費者に知らせること。計画的な立入検査として、時節別に最適な検査
対象を設け、抜き取りでなく、検査場所を全地域を対象とする、などの積極的な活動が望まれる。
*** 平成24年8月6日(広島への原爆投下から67年目の日に)
***産業部技術顧問・錦生如雪