平成社会の探索

<「知恵の会」への「知恵袋」>

ー第142回知恵の会資料ー平成29年3月19日ー


(その 87)「み・身」 ーかるたの世界の「み」ー
******** 目     次***********
<その1>百人一首かるた
<その2>いろはかるた
      雑記帳<その1>「身」のことわざ
雑記帳<その2>漢語の「*身」
***************************


+***************** <その1>百人一首かるたの「み」*******************

 百人一首の100首で「み・身」を歌語とする歌は7首、「わが身」として3首、合計10首あり、10首に1首は
「自分・われ・おのれ」のことを詠んでいる。和歌として花鳥風月の自然を詠みながら、結局は「わがみ」自身の
思いを詠んでいる。
 「み・自身」を詠む場合、対比すべき「相手・人」を対語に据えている。
 「わがみ」を詠んだ三首も、「花・さくら」「月」「雪」を見据えつつ、「おのれ」の思いを歌にしていると
言える。定家の選定も、「わが身」に対比すべき自然に、「花」「月」「雪」と三種の典型的な和歌世界の自然景物を
配しているのは見事と言うべきであろう。
 その他、「みをつくし」の歌語の歌二首をセットにしていることも、興味を惹く点である。

1.「身」
(1)わびぬれば今はた同じ難波なる「み」をつくしても逢はむとぞ思ふ  第20番 元良親王   みー逢ふ(ひと)
(2)わすらるる「み」をば思はず誓ひてし人の命の惜しくもあるかな   第38番 右近     みー人
(3)逢ふことの絶えてしなくはなかなかに人をも「み」をも恨みざらまし 第44番 中納言朝忠  みー人
(4)あはれともいふべき人は思ほえで「み」のいたづらになりぬべきかな 第45番 謙徳公    みー人
(5)難波江の葦のかりねのひとよゆゑ「み」をつくしてや恋ひわたるべき 第88番 皇嘉門院別当 みー恋(ひと)
(6)来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに焼くや藻塩の「み」もこがれつつ   第97番 権中納言定家 みー人
(7)人もをし人も恨めしあぢきなく世を思ふゆゑに物思ふ「み」は    第99番 後鳥羽院   みー人

2.「わが身」
(1)花の色は移りにけりないたづらに「わがみ」よにふるながめせしまに   第 9番  小野小町   みー花 
(2)月みればちぢにものこそかなしけれ「わがみ」ひとつのあきにはあらねど 第23番 大江千里    みー月
(3)花さそふ嵐の庭の雪ならでふりゆくものは「わがみ」なりけり      第96番 入道前太政大臣 みー雪


 (参考)百人一首の中の歌語群団
     百首を主題別に分類すると、「み」以上に歌数の多い歌語は、

    (1)「月」11首(7,21,23,31,36,57,59,68,79,81,86番)
        (注)知恵の会第65回(平成18年10月)「定家の月」で資料提出。

    (2)「風・嵐」11首(12,22,32,37,48,58,69,71,74,96,98番)

    (3)「ものおもふ」10首(40,41,43,48,49,63,80,85,86,99番)

 

****************<その2>かるたの「み」*********************

      
1.いろはかるた
  *身うちが古み(京)(他人のために働くばかりで自分のことに手が回らない。
             ものを分けるとき、自分に遠い人ほど良い物、新しい物を選って差し上げる。)
  (参考)箕売りが古み(商売に熱心な余り、自分のことが疎かになる。)

  *身は身で通る(裸ん坊)(大坂)(人間というものは、本来無一物で、生まれたときも裸なら、
                   焼かれる時も裸なり、であるから、それなりに何とか生きていける。)
  *身から出た錆(江戸)(みは刀の刀身と人の身をかけて、表面のさびは研げば落とせるが、内部から出たさびは
              落とせない。自ら犯した罪は誰も恨むことが出来ない。)
          
                     
2。たとへかるた    みうりかさでひる ひゃくくわんのたかもはなさにやしれぬ
3.道才かるた     御やうじ身の上知らず
4.俳ゆういろはたとゑ 身からでたさび けい城おのゑ 岩井粂三郎
5.大新板以呂波教訓譬草(落書)みのほどしらぬうづ虫 ゑんしやうのはぜるもしらずもみずりとりいた身しらず
6.いろは譬尽し    みみとってはなをかむ
7.世話いろは新絵解  箕うり笠でひる   (以上、出典:吉海直人「いろはかるたの世界」新典社選書33) 

8.一休和尚「道歌いろは歌」 皆人のとんじん愚痴の悪水は三途の川のながれとぞなる
9.式亭三馬「浮き世風呂」  三つ子の魂百まで
10.小山駿亭「絵本以呂波戒」 箕売りが古箕
11。藤村かるた        耳を貸して手を借りられ
12.伊丹万作かるた      道野辺のむくげは馬に食われけり
13.野坂昭如「当世いろはかるた」 三井三菱生命がけ (以上、出典:「別冊太陽」No.79 WINTER ’74 平凡社)
     

**************  付録 いろはかるた ****************

    江戸          京都          大坂
い 犬も歩けば棒に当たる    一寸先は闇        一を聞いて十を知る
ろ 論より証拠         論語読みの論語知らず   六十の三つ子
は 花より団子         針の穴から天を覗く    花より団子
に 憎まれっ子世に憚る     二階から目薬       憎まれっ子頭堅し(神直し)
ほ 骨折り損のくたびれ儲け   仏の顔も三度       惚れたが因果
へ 屁をひって尻窄める     下手の長談義       下手の長談義
と 年寄りの冷や水       豆腐に鎹(かすがい)   遠くの一家(いっけ)より近くの隣
ち 塵も積もれば山となる    地獄の沙汰も金次第    地獄の沙汰も金次第
り 律義者の子沢山       綸言汗のごとし      綸言汗のごとし
ぬ 盗人の昼寝         糠に釘          盗人(ぬすびと)の昼寝
る 瑠璃も玻璃も照らせば光る  類をもって集まる     類をもって集まる
を 老いては子に従え      鬼も十八         鬼の女房に鬼神
わ 破れ鍋に綴じ蓋       笑う門には福来る     若い時は二度ない
か かったいの瘡うらみ     蛙の面に水        陰裏の豆もはじけ時
よ 葦の髄から天井覗く     夜目遠目も傘の内     よこ槌で庭はく
た 旅は道連れ世は情け     立て板に水        大食上戸の餅食らい
れ 良薬は口に苦し       連木で腹切る       連木(れんぎ)で腹切る
そ 総領の甚六         袖すり合うも他生の縁   袖すり合うも他生の縁
つ 月とすっぽん        月夜に釜を抜かれる    爪に火をともす
ね 念には念を入れよ      猫に小判         寝耳に水
な 泣きっ面に蜂        済(な)す時の閻魔顔   習わぬ経は読めぬ
ら 楽あれば苦あり       来年の事を言えば鬼が笑う 楽して楽知らず
む  無理が通れば道理が引っ込む 昔とった杵柄、
                               馬(むま)の耳に風        無芸大食
う  嘘から出た実(まこと)     氏(うじ)より育ち        牛を馬にする
ゐ  芋の煮えたも御存知ない     鰯の頭も信心から          炒豆(いりまめ)に花が咲く
の  喉元過ぎれば熱さを忘れる   鑿と言えば槌              野良の節句働き
お  鬼に金棒                   負うた子に教えられて
                               浅瀬を渡る                陰陽師身の上知らず
く  臭いものに蓋をする         臭い物に蝿がたかる        果報(くゎはう)は寝て待て
や  安物買いの銭失い           闇夜に鉄砲                闇に鉄砲
ま  負けるが勝ち               蒔かぬ種は生えぬ          待てば甘露(かんろ)の日和あり
け  芸は身を助ける             下駄と焼き味噌            下戸の建てた蔵はない
ふ  文(ふみ)はやりたし
    書く手は持たぬ             武士は食わねど高楊枝      武士は食わねど高楊枝
こ  子は三界の首っ枷           これに懲りよ道才坊        志は松の葉
え  得手(えて)に帆を揚げ     縁と月日、                縁の下の力持ち
                                                         閻魔の色事
て  亭主の好きな 赤烏帽子      寺から里へ                天道人殺さず
あ  頭隠して尻隠さず           足元から鳥が立つ          阿呆につける薬はない
さ  三遍回って煙草にしょ       竿の先に鈴                触らぬ神に祟りなし
き  聞いて極楽見て地獄         鬼神に横道なし、          義理と褌は欠かされぬ
                                                         義理と褌(ふんどし)
ゆ  油断大敵                   幽霊の浜風                油断大敵
め  目の上の瘤(こぶ)         盲(めくら)の垣覗き      目の上の瘤(こぶ)
み  身から出た錆               身は身で通る裸ん坊        蓑売りの古蓑、
                                                         身うちが古み
し  知らぬが仏                 しわん坊の柿の種          尻食らえ観音
ゑ  縁は異なもの味なもの       縁の下の舞、              
                               縁と月日                          縁の下の力持ち
ひ  貧乏暇なし                 瓢箪から駒が出る          貧相の重ね食い

も  門前の小僧習わぬ経を読む   餅は餅屋                  桃栗三年柿八年
せ  急いては事を仕損じる、
    背に腹は代えられぬ         せんちで饅頭、            梅壇(せんだん)は双葉より芳ばし
                               背戸の馬も相口(あいくち)
す  粋(すい)は身を食う       雀百まで踊り忘れぬ        墨に染まれば黒くなる

京  京の夢大阪の夢             京に田舎あり             (なし)


      ********* 雑記帳<その1>「身」のことわざ***********

1.みでないものは骨膾      ーものはなんでもすてるところがない。
2.身に応ぜぬ幸いは子孫の枯るる端ー分不相応の幸福は子孫が破滅する端所となる。 
3.みに過ぎた果報は災いの基   ー身分不相応の幸せはかえって将来災難を招くもとになる。
4.みにまさる宝なし       ー我が身よりたいせつなものはない。
5.身のうちの財は朽ちることなし ー人に備わった技能・才能は一生其の人の役に立つ。
6.身は身で通る         ー貧富賢愚の違いはあっても人はそれぞれに身の程に応じてそれなりに
                  生活していけるもの。人は結局自分本位にしか暮らさない。
7.身を殺して仁をなす      ー一身を捨てて仁のために尽くす。
8.身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ ー一身を犠牲にするだけの覚悟があって初めて活路を見いだし、
                  物事に成功することができる。
9.みを抓みて人の痛さを知れ   ー自分の体を抓って他人の痛さを察せよ。
                      (日本国語大辞典・小学館)

***************雑記帳<その2>漢語にみる「身」の処し方*****************

1.乞身 辞職を願う    2.殺身成仁 命を捨てて仁道をなす    3.脱身 身を引いて逃れる
4.挺身 人に先じて赴く  5.贖身   金銭を出して刑罰を免れる  6.反身 我が身を反省する
5.粉身 激しく労働する  6.没身   一生を終わる        9.立身 我が身を立派に完成させる
                (引用辞典 諸橋徹次ほか「新漢和辞典」大修館書房 昭和42年2月)

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平成29年1月25日  *** 編集責任・奈華仁志 ***

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