第017話「飲酒功罪論」 (徒然草:第175段より) |
ーーーーーーーー 箴言の箇条書き ーーーーーーーー *「悪い酒」を挙げると、 (1)飲酒を無理強いすることは、わけの分からないこと。(無理強い酒に良いことなし。) (仏説「酒を取りて人に飲ませたる人、五百生が間、手なき者にうまる) (2)飲酒によって男も女も醜態をさらすのは誠に見るに堪えない。 (3)酒を飲むと、どうしても過ち多く、財を失い、病になる。(百薬の長も万病のもと) *「良い酒の飲み方」を挙げると、 (4)興有る時節(月の夜、雪の朝、花のもとなど)「盃出したる、万の興をそふるわざなり。」 (5)徒然なる日、友の入りきて、「とりおこないたるも、心なぐさむ。」 (6)高貴な方からのお酒は「良き様なる気配して、挿し出されたる、いとよし。」 (7)冬、親しい友と、差し向かいで「多く飲みたる、いとをかし。」 (8)「旅の仮屋、野山などにて、芝の上にて飲みたるもをかし。」 *理想的な酒飲み人とは、 (9)酒を大変迷惑がる人もやむなく、少し飲んでいるのも、「いとよし。」 (10)身分の高い人から、「もう少し杯を上げて」などいわれると、うれしくなる。 (11)近づきになりたい人が「上戸にて」、すっかり打ち解けるのも「またうれし。」 (12)「上戸はをかしく、罪ゆるさるる者なり。」 |
*********** 平成の閑談 **********兼好法師の言わんとする「飲酒論」の要点は「酒は上手に飲め」「をかし」き「上戸」になれ、と 言っているようです。それは、上記の箇条書きの(4)から(8)までの事例のような状態を 言っているのでしょう。また、勘ぐれば、身分の高い人(教養の高い人のことも含まれるかも知れ ませんが)は、酒の飲み方を心得ているということも言いたいような気がします。 しかし、その状態も一つ間違うと、どうしても(1)から(3)の様な事態に陥りやすいわけ です。それは身分の高さと教養の高さが「酒飲みの限界を心得させる」というのでしょう。 上記の「良い酒」「悪い酒」の事例は、平成現代でも言えることで、時代に関係なし、でしょう。 時代が進むに連れて、(4)から(8)の機会がなくなり、ぎすぎすした人間社会の人間関係が (1)から(3)の酒飲みに走らせるようです。 兼好法師の鎌倉時代から、さらに室町時代と比較して、ことに江戸時代に入ってから、日本酒も 製造元の変化と併せて、酒造技術的にも大変発達して、だれもがおいしく飲める酒に変わって行き、 現在では、いろいろの醸造行程を経てきた各種の酒が、いつでもどこでも、飲めるようになりました。 それだけ、兼好法師よりも現代人の方が、酒の世界には、恵まれているのですが、果たして、 本当に「恵みをもたらす酒」になっているといえるのでしょうか。 |
************ 世事雑感 *************酒に関する諺を、「良い面、好ましいところ」、と「悪い面、困ったところ」で、分類してみますと、 次のようになります。 「良い面、好ましいところ」ー13諺集 (1)酒は百薬の長(酒は飲めば健康の為の優れた薬となる。) (2)酒三杯は身の薬(少量の酒は薬となる。) (3)酒は情の露雫(酒を飲むことによって、人の心情は、細やかになる。) (4)酒は詩を釣る針(酒を飲むと良い詩歌が浮かんでくる。) (5)酒は詩を釣る色を釣る(酒によって詩歌が浮かび、人の心情は深みを増す。) (6)酒は天の美禄(酒は点の神様からの贈り物) (7)酒の燗は人肌(酒の燗は人の体温) (8)酒が無くて何の己が桜かな(花見には酒が必須) (9)酒はほろ酔い、花はつぼみ(ほろ酔い酒、蕾み桜が丁度良いところ) (10)酒に十の徳あり(酒の特徴まとめ) *百薬の長、*寿命を延ばす、*旅行に食あり、*寒気に衣あり、 *推参に便あり、*憂いを払う玉ぼうき、*位なくして貴人に交わる、 *労を助く、*万人和合す、*独居の友となる (11)酒に別腸あり(酒の入るところは、食物と別、酒の多少は、体の大きさに関係なし。) (12)酒の酔い、本性違わず(酒で、本性が出てくる) (13)酔いざめの水下戸知らず(酒飲みでないと酔い覚め水のうまさがわからない) 「悪い面、困ったところ」ー13諺集 (1)酒が酒を飲む・酒酒を飲む(酔っぱらうほど、際限なく飲み出す) (2)酒と産には懲りた者が無い(酒とお産はやめられない) (3)酒の酔落ちても怪我せず、または、酔いどれ怪我せず。 (4)酒、人を酔わしめず人自ら酔う(酒に罪はない、飲む人にある。) (5)酒は三献に限る(酒は三献を限ってやめるべきだ。) (6)酒返しはせぬもの(送られた酒は辞退したら失礼に当たるー大変勝手な言い分) (7)酒飯雪隠(来客への注意点、酒、飯、手洗い) (8)酒飲んでも煙草は辞められぬ(つまり、酒も煙草も辞められない) (9)酒飲みは遅れて来る(遅れてきて駆けつけ三杯と余分に飲むいじましさ) (10)下戸の建てた倉はない(酒つきあいをしないと金づるがないー酒飲みの勝手な言い分) (11)酒は井戸掘ほど飲む(酒飲みは井戸水をくみ出すようにがぶがぶ飲む) (12)酒は飲むべし、飲まるるべからず(酒は度を過ごすな) (13)酒を使う(酒の勢いを借りて、気儘に振舞う) |
************ 参考メモ欄 *************1.日本人の酒あれこれ 酒の歴史と江戸初期に銘酒「富田酒」についてのメモ書き「目が廻る回文の富田酒」を引用します。 2.酒は税金を飲んでいるようなもの(酒税のはなし) 「酒税法」(平成15年改正)の対象となる酒類とは、アルコール分1度以上の飲料とされます。 その酒類とは、課税上の必要性から、主に原料と製造方法の違いにより、酒類を10種類に分類し、 清酒、合成清酒、しょうちゅう、みりん、ビール、果実酒類、ウイスキー類、スピリッツ類、 リキュール類及び雑酒とされています。それにかかる税金は、以下のようになります。 品 種 アルコール度 税金の割合 清 酒 (15。0%) 約18% 焼 酎 (25.0%) 約36%(甲類) 約32%(乙類) ビール (5.0%) 約39% ウイスキー (40.0%) 約23% 発 泡 酒 ( 5.5%) 約29% (注1)酒類の価格は市場の自由決定されるものであるのに対して、酒税の税率は酒類の種類や 品目に応じて、またアルコール分に応じて定められている。 (注2)「発泡酒」は、雑酒に分類されるもののうち麦芽を原料の一部とした発泡性のある酒類で、 麦芽の使用割合が50%未満。 「ビール」は麦芽の使用割合が67%以上のものをいいます。 (注3)酒類の製造は免許制ですから、アルコール度1度以上のお酒を製造すると、罰せられる。 (注4) 国税庁ホームページ 酒類関係情報 http://www.nta.go.jp/category/sake/sake.htm 3.演歌に酒は付きもの 演歌100選のCD商品のなかから、 酒は涙か溜息か(藤山一郎)、悲しい酒(美空ひばり)、おもいで酒(小林幸子)、 ふたり酒(川中美幸)、おやじの酒(朝田のぼる)、夢追い酒(渥美二郎)、 酒よ(吉幾三)、北酒場(細川たかし)、片恋酒(宮史郎)、酒場川(ちあきなおみ)、 酒きずな(天童よしみ)、酒場(冠二郎)、祝い酒(坂本冬美)、しのび酒(冠二郎) また、最近のCD情報より、演歌歌手別に曲名を拾ってみると、 二度惚れ酒(水沢明美)、 女の酒(瀬川瑛子)、 酒よ(鳥羽一郎)、 契り酒(篠路圭子)、 しあわせ酒(立樹みか)、 悪いお酒ね(ロス・プリモス)、 ほろり酒(広野ゆき)、 片恋酒(鳥羽一郎)、 雨夜酒(立樹みか)、 上り酒(門脇陸男)、祝い酒(門脇睦男) おもいで酒(瀬川瑛子)、裏町酒場(立樹みか)、 祝い酒(瀬川瑛子)、 なみだ酒(姿のり子)、ぐい呑み酒(真咲よう子)、 男の酒(秋岡秀治) お酒だよ(岸千恵子)、こころ酒(藤あや子)、手酌酒(香田晋)、ひとり酒(伍代夏子)、 ひとり居酒屋(きむ・ヨンジョ) |