平成社会の探索



つれづれ閑談 ー平成の徒然草ー
<定年>は<諦年>なり
<諦念>人生への<箴言>を<進言> 


第016話「唐物無用」
(徒然草:第120段より)
ーーーーーーーー 箴言の箇条書き ーーーーーーーー
唐の物は、薬の外は、無くとも事欠くまじ。
書どもは、この国に多く広まりぬれば、書きも写してん。
唐土舟のたやすからぬ道に、無用の物どものみ取り積みて、
所狭く渡し持て来る、いと愚かなり。
「遠き物を宝とせず」「得難き貨を貴まず」
***********  平成の閑談  **********
 中国から国家主席胡錦涛氏が来日して、日本の福田首相との間に首脳会談が開かれ、
友好関係を深めようとしているこの時期に新聞記事の評論(朝日新聞・天声人語・
平成20年5月9日付)に引用されたのが当該第120段の「唐物無用」という趣旨の随筆部分です。
 兼好法師の時代の「唐物」環境をそのまま現代「西欧文明」に移し替えますと、次のように
なりましょうか。
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「西欧の文物は、民主主義以外は、無くとも事欠くまじ。」
「西欧の情報は、この国に多く広まりぬれば、模倣はもう十分にしつくしている。」
「大変なお金を掛けて、高い税関を払ってまで、無用の物どものみ輸入して、
所狭く渡し持って来るのは、誠にばかげている。」
「遠く離れているところの物をわざわざ宝にするべきでない。」
「お金を積まないと入らない物を有り難がらなくても良い」
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 新聞の「天声人語」では、「無用の唐物」とは言わないまでも、現在日中の外交懸案事項として、
次のように列挙しています。
 日中外交「三点セット」ー「チベット」「ガス田」「ギョウザ」
(1)の課題の「チベット」問題は、中国の内政問題かもしれませんが、チベット自治区地域の
民主化運動を中国中央政府が押さえ込んだもので、中国当局の政治の進め方に異論有りと
いうことで、他民族特に西欧の民主主義国家は、納得しないところの民族間の人権問題です。
(2)「ガス田」問題は、東シナ海海底資源開発の権利を主張するものです。
天然資源に対する大国の先制あるいは強硬な所有権主張の態度です。
(3) これらの課題の内、日本人側から見て、明らかに「唐物」に当たるのが、「ギョウザ」問題
でしょう。中国国内の食品製造業者から輸入したギョウザに有害物質が含まれていたために、
日本の消費者に死亡者が発生したというものです。日本人は中国人に劣らず、ギョウザが
好きなんですね。
************  世事雑感   *************
 兼好法師の時代に於ける「唐物」の考え方を現代に当てはめるならば、一時代前までは
「舶来品」とか、「洋行帰りの学者さん」などと持てはやされたものになりましょう。これらの
「唐物」に相当する西欧の諸文物は、現代でも、相変わらず、いろいろ形を替えて、社会に
入り込んでおります。
特に女性の持ち物にはかなり広範囲に浸透しているようです。服装から、化粧品、小間物、に始まり、
フランスのワインまで、男性の場合でも自動車に始まって、ゴルフセットまで、数え上げたら切りが
ありません。
 いまだに物の考え方がそっくり「唐物」になりそうな場合もあるようです。学者の研究成果が
「唐物」でない本当の「国内産」として評価されるようになりつつあることはいいことです。
 「唐物」一辺倒からの脱却することによって、すこしずつ「本物」が浸透して、ノーベル賞の
受賞者も日本人が評価した日本人が増えることを願うところです。

 嘗てかの紫式部は、その「源氏物語」の中で、「漢才」に対する「和魂」を言及しました。
「大和魂」と書いて。
 (参考メモ)<平成社会の探索>ー知恵の会への知恵袋ー「大和魂・千年紀」参照方。
  平成20年は、「源氏物語千年紀」とされ、ちょっとした「源氏物語」ブームとなっています。
 原文を通して一度も読んだことが無くとも、さらにいうなれば、原文を一度も見たこともなくとも、
紫式部が書いた「源氏物語」をいかにも読んだ気にならせる講演会や文学講座が「はびこって」
おります。とある「源氏物語展示会」でのパネル説明によりますと、現在全世界で20カ国語弱の
多くの言語による翻訳本が出ているとのことです。
 
 紫式部が「大和魂」と表現した対象事物は、現代語で言い換えますと、「日本的な工夫、あるいは
心映え」、また「日本人的才覚、日本人的心得、心構え、心遣い」などと言うことになりましょうか。
 紫式部は、「唐物は無用」とはいっていないのです。「唐物を十分に習得しないと、日本的工夫
あるいは日本人的才覚は働きませんよ」、といっているようです。したがって、「唐物」あっての
「大和文物」ということになるのでしょう。

 ここで声を大にして、世界に向かって表明したいことは、「源氏物語」は、今から千年前に世に出た
「唐物」でない民族の誇る「純粋な大和物」ですぞ!

 兼好法師の時代は、紫式部の源氏物語から既に、300年近く経っていますから、「唐物」の
影響はかなり違ってきていることが考えられます。ましていわんや、平成現代は、兼好法師の
時代から700年経っている上に、これまで多くの「唐物」に相当する外来文物の「舶来物」を
受け入れてきていますので、いまさら「唐物」一辺倒に成る必要はさらさら無いように思いますが、
如何でしょうか。まだ「外来文化の消化」が十分でないでしょうか。
************  参考メモ欄  *************
 日本人社会のいろいろな品物(生活必需品から嗜好品あるいは豪奢な贅沢品まで)の
自給率は、大変心細い状態で、どこか外国からの取り込みが足らなくなった途端に日本社会は
崩壊するのではないかとさえ思われます。

 「ギョウザ」で問題になっている「食料の自給率」を統計から見ますと、
(1)各国の食糧自給率比較:フランス130%、米国120%、ドイツ90%、英国70%、
  日本40%
(2)穀物類の自給率変化:1965年60%、2005年30%
(3)国産品で何とか賄える食料:米、野菜、卵、小麦、大豆、砂糖など数えるほどしかない。

 自給率の低さは、なにも食料だけに限らず、更に重要なエネルギー源となると、石油も
原子力燃料も殆ど輸入に頼っているわけですから、心細さは、ますます拡がってゆきます。

 せめて「頭の働き」(日本人的才覚)だけでも「輸入に頼らない」日本人の「大和魂」を
示したいところです。

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平成20年5月15日   *** 編集責任・奈華仁志 ***


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